メダカのほんとうの名前は?

メダカと聞いて思い浮かべる情景は、水のぬるむ春先に小川や田んぼの溝などで、流れに向かって列を作って泳ぐ群れの姿ではないでしょうか。童謡の「メダカの学校」のように、ソッとのぞいているつもりでも、近寄る足音を感じてサッと群れをくずして姿をくらまします。

このメダカの群れ、川の中ではみんなが仲良く暮らしているように見えますよね。しかし、水槽に数匹のメダカを入れて観察すると、仲が良いように見えていたメダカたちに、順位ができてきます。

一番大きくて強いメダカは、一番先にえさにありつけるので、安全そうな水面近くの水草のかげを陣取ります。そして、他の個体が近づくと威嚇(いかく)して追い払います。そのほかのメダカも、力の強い順に、自分の好みの場所に落ち着き、小さな縄張りを作ります。メダカの学校をまとめるのも、結構大変そうです。ただし、順位ができるのも、水槽のようにせまい空間に入れられてしまったからで、広々としたところではみんな、のどかに仲良く暮らしています。

ところで、みなさんは、メダカにはいろんな呼び名があるのを知っていますか? 「日本産魚名大辞典」には2600以上、「メダカの方言」という本には約5000のメダカの地方名が記録されています。ちょっと例をあげると、アブラコ、ウルメ、カンコロ、コメンジャコ、ザッコ、ゾナメ、メザカ、メタカ、メンザ、メンパチなどなど。

このことから、メダカがいかに身近な魚だったことが判ります。メダカの方言はいろいろあっても、日本にいるメダカは昔から1種とされ、和名は「メダカ」ひとつでした。
分子遺伝学的に「北日本集団」と「南日本集団」という、2つのグループに分けられていましたが、近年、くわしく研究した結果、それぞれのグループはDNAや体の特徴などから別種ということが判明しました。それで、日本のメダカは、北日本集団のメダカに「キタノメダカ」南日本集団に「ミナミメダカ」という和名がつき2種になってしまいました。
このことにより、残念ながら古くから親しまれてきた「メダカ」という和名の魚は、いなくなってしまったのです。


参考資料:中坊徹二編『日本産魚類検索第3版』2013東海大学出版会


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