海のオオカミ 後編

3.眼がまるでカメレオンのように動く!

見とれていると、漁師さんが「オオカミは魚のくせにまばたきするからおっかねえよな」とつぶやいた。

まばたき?おかしいな。
魚にはまぶたがないから、まばたきなんてできないはずなのに。
意外とつぶらでかわいい眼をしているが……。
ふしぎに思って黒いつぶらな瞳を見つめていると、

ギョロッ!ギョロッ!

と、眼をあちこちに動かしはじめた。
まるでカメレオンのようだ。

たまに大きく動かしすぎて、瞳がかくれて見えなくなることもある。
これがまばたきに見えるのだ。

おそらく、ねぐらにしている岩のすきまから、顔だけのぞかせてはこうして監視カメラのように眼を動かして周囲を見わたしているのだろう。
そして、エサとなる生きものや、外敵(成魚にはほとんどいないと思うが)をさがしているのだろう。

一歩も動かないで周囲の様子を確認できる眼。

上手に泳ぐことをあきらめて、かくれることに特化したオオカミウオにふさわしい機能だ!

ということは、オオカミウオを釣り上げるためには、かれらのひそんでいる岩場をさがし当てて、眼のとどく範囲へエサを送りこまなければならないのだ。

逆にピンポイントで居場所をつき止めることができれば、案外かんたんに釣れてくれる。

海を知りつくした腕のいい漁師さんに協力してもらうのが、捕獲への近道といえそうだ。


4.歯もすごいが、ほほ肉はもっとすごい!
そして、釣り上げたオオカミウオの内臓をとりだしてみると、なんと胃のなかから、粉々にくだけたホタテの貝殻が大量に出てきた。
オオカミウオの胃のなかから出てきた、粉々にくだけたホタテの貝殻。
殻ごと噛みくだき、殻ごと飲みこんでいた。

ホタテなんて殻ごとバリバリ食べてしまうのだ。

漁師さんがいうには、グチャグチャにくだけた巻貝やウニ、ケガニなどが出てくることもあるという。

口のなかをのぞいてみると、なんと口蓋(※口の中の上側の部分)にまで、小石のような臼歯がしきつめられるように並んでいる。
オオカミウオの口内。口蓋にも臼歯が並ぶ。
これでかたい殻をくだき、すりつぶしているのだ。

もちろん、歯が立派なだけでできることではない。

あごの力もとんでもないはずだ。
それは大きくふくらんだ頭部が証明している。

オオカミウオは頭でっかちな外見をしているが、じつは頭骨そのものが極端に大きいわけではない。
ほほ肉のボリュームがすごいのだ。
オオカミウオの頭骨。
魚のほほ肉とは、上下のあごを動かして、物を噛むための筋肉である。

オオカミウオの大型の個体では、おとなの男性のにぎりこぶしよりも大きなほお肉がついている。

こんな魚、ほかにはそうそういない。

つまり、オオカミウオは魚のなかでもケタはずれに噛む力が強いということだ。
貝殻がくだかれるのも、釣り糸がつぶれるのも、漁師さんたちがこわがるのも納得だ。


5.そして、オオカミウオを食べてみた!

ぼくは、つかまえた生きものを五感で感じることにしている。
そのため、いつも食べてみているのだ!
「味覚」だ!
今回のオオカミウオも、もちろん食べてみた。
オオカミウオの兜煮。
気になる味に関しては、胴体の身はクセがなくておいしいが、少し水っぽくて身がやわらかかった。

ただし、ほほ肉だけは肉質が完全に別物で、煮つけは魚というよりむしろ鶏肉のように筋肉質な歯ごたえだった。

…その強さが食感からもうかがえる。

ほほ肉どっさりで食べごたえばつぐん。

実際につかまえてみるといろいろなことがわかる!

小さなころからあこがれてきたオオカミウオだが、このように実際につかまえてみることでいろいろな事実を知ることができた。

このコラムが、ぼくと同じようにオオカミウオにあこがれ、いつか同じようにこの魚をつかまえに行く人たちの参考になればいいと思う。
そして、次はかれらがまた新しい発見を報告してくれることを期待したい。


〜「海のオオカミ」おわり〜

次回のお話は、ジャングル最強のアリ!
お楽しみに!!