怪奇生物はトンネル工事の大先生!? 『フナクイムシ』 <後編>
2020.05.15
【実は二枚貝!?木をけずる貝がら】
いやいやふしぎなのは見た目だけじゃない。なんとこのナゾの怪生物は流木の中にトンネルのような巣穴を掘ってくらしているのだ。
しかもこのトンネル、よく観察してみると内側がセメントのようなものでなめらかにコーティングされている。

(上)フナクイムシがひそんでいたトンネル。
(下)これ、実は貝がら!身をまもるためでなく木を掘って食べるために使う。
このセメントのような質感、まるで貝がらのような…。
……そう!! 何をかくそうこのフナクイムシ、アサリやシジミと同じ二枚貝の仲間なのだ!
ええっ!? どこが貝だよ! 貝がらなんてないじゃん!!
…いやいや。あるんだなぁこれが。ほら、体のはしっこの丸いヘルメット。実はこれ、元は貝がらなんです。その証拠にちゃんと「二枚」くっついてるでしょう? <上の写真(下)参照>
なるほど! そもそもカタい木の中に住んでいるから貝がらで身を守る必要がない。
だから貝がらが小さくなっちゃったのかな。
うん、もちろんそれも理由の一つだろう。
しかし、この貝がらは完全に役目をなくしたわけではない。
身を守るかわりにもうひとつ、新しい役割を果たすようになった。なんと!この二枚の貝がらはヤスリのようにザラザラしていて、たがいちがいに動かすことで木を削って食べるのだ。つまり貝がらはフナクイムシの「歯」として、あるいは「スコップ」「ツルハシ」として使われているのだ。
……ということは、貝がらがついている方が頭で、反対側のツノみたいなものが生えている方がおしりだったんだね。

▲二枚貝の特ちょうである水管(水を吸ったり吐いたりする管)もちゃんとある。この辺もアサリっぽいね。
ちなみにあのおしりのツノは「尾栓(びせん)」といい、外から敵が入ってきたときなどにトンネルにフタをして身を守る役目がある。
それにしても貝がらで木を掘る!?貝がらで木を食べる!?そんなアイディア、フツー思いつくか!?生きものたちの進化って……ホントにスゲえなぁ~!!
そうそう。ここらでフナクイムシという名前がついたワケを教えておこう。
さきほど書いたとおりフナクイムシのエサは流木、つまり水中にある木だ。ということは木でできた船だって、フナクイムシにとってはごはんにしか見えないわけ。ガリガリと食べられて穴だらけのトンネルだらけにされ、水が流れこんで沈んでしまう。
そんなわけで「船を食う虫」フナクイムシという名前がついたわけだ。
【人間はフナクイムシにトンネルの掘りかたを教わった】
……ところで、ひとつ大事なことを忘れていないか?
フナクイムシたちが掘ってきたトンネルの中はスベスベにコーティングされていたよね?

▲トンネルの中はセメントのようなものでカチカチ、スベスベにかためられている。
あのスベスベは貝がらに近い成分で、フナクイムシの体からにじみ出たもの。木は水を吸うとグングンふくらむので、中にいるフナクイムシたちをおしつぶしてしまうことがある。そこで自分のまわりをカチカチにかためることであのフニャフニャな体をまもっているのだ。
そして、なんとこのフナクイムシたちの工夫は僕たち人間のくらしにも役に立っている。
海の底にトンネルを掘るときにこのやり方をマネすると、工事中にトンネルが崩れることがないのだ。
フナクイムシがくれた知恵のおかげで、僕たちは自動車に乗って海の向こうまで行けるのだ。
ありがとう!フナクイムシ先生!

▲すごいぞ! フナクイムシ!
【そしてウマいぞ! フナクイムシ】
……ちなみに、なんとフナクイムシは食べられる。フィリピンなどでは「タミロック」と呼ばれ、レストランで売られることもあるんだ。
ええ~こんなわけのわからない生きものを食べるの!?……と言うのはおかしいぞ。
だってみんなアサリやカキやホタテは食べるよね?
フナクイムシだって同じ二枚貝だもん。ぜんぜんふしぎなことじゃあない。
なお、味はカキとイカをまぜたような味でなかなかおいしい。

▲味は意外とイケるぞ!!
ただ、とても味が濃いので、ごはんのおかずとしてはあまりたくさん食べられるものではないかな……。
お酒のおつまみなんかちようどいいんだけど……。
……気になる人は大人になったらフナクイムシを探しに東南アジアへ行ってみよう!!
- 怪奇生物はトンネル工事の大先生!? 『フナクイムシ』 <後編>
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平坂寛(ひらさかひろし)
1985年、長崎県生まれ
幼少の頃より動植物に強い興味を持ち、「五感を通じて生物を知る」をモットーに各地で珍生物を捕獲している。
「生き物は面白い」ということを多くの人に伝えるために学生時代から生物専門のライターとして活動を開始。
ウェブサイト「Monsters Pro Shop」編集長。
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