貝なの?タコなの?海をただよう珍生物「アオイガイ」

冬の砂浜を歩いていると、白くすきとおったたとてもきれいな貝がらを見かけることがある。

この貝がらは二つ合わせると、アオイという植物の葉のようなかたちになることからアオイガイと呼ばれている。

生きているアオイガイを観察したいときは夜の海に船の上からイカ漁につかう強い光を向けてやる。
アオイガイは光にあつまる習性があるのだ。
水面にポコン!と浮かんだ白い貝をすくう。

中身の入ったアオイガイがこれだ!(画像:左上)

なにこれ!?

貝がらから大きな目とたくさんのあしが出ているぞ!

サザエやアワビとはまったくちがう姿。

いったいこいつは何者だ!?

正体をたしかめるために中身を取り出してみよう。


なんと!

小さなタコが出てきた。(画像:右下)

そう!

アオイガイは名前に「貝」とついているけれど、実はタコのなかま。

「カイダコ」と呼ばれることもあるんだ。

アンモナイトの生きのこりか!?と思ってしまうかたちだけれど、そこは「他人のそら似」らしい。
アオイガイはふつうのタコにはない平たく広がった二本のうでを持っている。

貝がらをつつむように広がるこのうでから石灰を分泌し、貝がらを大きくしたり修理したりするのだ。

でもこの貝がら、とってもうすくて弱い。中身がすけて見えてしまうほどだ。
だから、乱暴にさわるとかんたんにこわれてしまう。

水面に浮かんだところをつぎつぎとカモメにおそわれているし、身を守るためにはあまり役に立っていないような…。

それもそのはず。

サザエやタニシの貝がらが「よろい」だとすれば、アオイガイの貝がらは「うきぶくろ」なのだという。

身を守るためではなく、中に空気をためてからだを浮かせ、水中でバランスをとっているのだ。

貝がらの中の空気を調節しながら海流に乗ってただよいながら生活しており、泳ぎはあまり得意ではない。

波にさからえず海岸に打ち上げられてしまうのはこのためだ。

ところで、せっかく捕まえたのだからアオイガイを食べてみよう。

みためはどう見てもタコなんだから、きっとおいしいはずだ。
おさしみや煮ものにしてみると、やっぱり味はタコに似ていてなかなかおいしい。

…けれど、ふつうのタコにくらべてずいぶん身がやわらかい。

あのコリコリしたタコらしい歯ごたえがまったくない。

これはきっと、タコとアオイガイのくらし方がすっかりちがうためだろう。

ぼくらがふだん食べているタコ(マダコやミズダコなど)は8本のうでで海底の岩にしがみついたり、かたくて力の強いカニやイセエビをしめあげて食べている。

だからたくさん筋肉がついていて、歯ごたえがいいのだ。

一方でアオイガイの人生は海の流れにまかせてただよってばかり。エサも、目の前を通りがかった小さなエビや小魚をキャッチするだけ。

だから腕が細くてやわらかいのだろう。

動物の生きかたはその味や食感にはっきりと反映される。

アオイガイはそんなことを教えてくれる不思議な生きものだった。


〜貝なの?タコなの?海をただよう珍生物「アオイガイ」おわり〜




平坂寛さんが編集長を努めるウェブサイト